永遠の一瞬・57
「 ―― サブロウ、起きてるか」
 声をかけられて目をあけると、あたりは既に真っ暗で、ワゴン車は駐車場に止まっていた。
「ああ、……今起きた」
「先に入ってるぞ」
「OK」
 タケシとシーラが車を降りて、腕を組んで店に向かって歩いていくのが見えた。場所は国道沿いのイタリアンレストランだ。車は店からは直接見えない駐車場の1番隅の方に停めてある。
 それから15分くらい待って、オレは車を降りた。レストランの中に入ると、時間がずれてるせいかそれほど客は多くなかったのだけど、その数少ない客たちの視線はほとんど窓際のテーブルに座るタケシとシーラに注がれてた。
 ウェイトレスですらオレが入ってきたことに気付かないくらいだ。これだけ2人が目立ってくれれば、オレがこの店に来たことなんか誰も覚えてないだろう。
 大急ぎで食事をして、2人より先に店を後にする。車に戻ってしばらく待つと、2人が食事を終えて戻ってきていた。運転席にタケシ、助手席にシーラ。すぐに車を発進させて、暗闇の国道を走り出す。と、シーラが座席を倒して、そのエレガントな服装にはまるでそぐわない仕草で後部座席に乗り込んできた。
「サブロウ、先に着替えさせてくれる? なんか肩こっちゃって」
「なんでよ。もったいないじゃん、絶世の美女なのにさ」
「だったら今度からサブロウが女装しなよ。その方がぜったい目立つよ」
 ハハハ、確かにね。今のオレが女装するとどう見てもオカマにしか見えないから、タケシと並んだら目立つこと間違いないだろうね。
 これでも身長が伸びる前ならけっこう美人だったんだけどな。変装の単位を取るためには女装も必要だったから、一応ひと通りのことはやった覚えがある。タケシの女装はちょっと許せないものがあったけど。
 シーラに場所を譲って助手席に移動してしばらく。服装を変え、化粧を落とし、別の化粧を施したシーラはまた別人と化していた。含み綿で顔の輪郭も変わってるから、もう18歳の女には見えない。20歳台くらいの平凡な男に変わっていた。
「タケシ、今どのへん?」
 声も少し男っぽく作ってる。暗闇の中でなら、よっぽど何時間も接していないことには、シーラを女だと見破ることはできないだろう。
「あと20分くらいだろう」
「先にオレが着替えとくよ。シーラ、交代して」
 再びオレは後部座席に移動して、今度は目立たない作業着に着替える。オレの作業着は平凡な会社員風の黒の背広だ。そのあと運転をシーラに交代して、タケシが配電工風の服装に着替えた。
 国道から交差点を曲がって、徐々に川田ビルに近づいてゆく。いよいよだ。
 もう1度装備を確認して、オレは気持ちを引き締めた。