永遠の一瞬・55
 深酒にならない程度にシャンパンで宴会をして、たわいない会話でリラックスできるようにした。そのあと、オレはワゴン車の鍵を受け取って、2人を置いて部屋を出る。目的は機材の確認だ。だけど、本部が用意した車に変な仕掛けがないかどうか、そのチェックの方が重要だった。
 必要ないとは思ったけど、一応外見もひと通り確認した。そのあと運転席のドアを開けて、内側から他のドアに仕掛けがないかどうかチェック。念のため全部開けてみてドアの内部もチェック。ドアを閉めてから、本命の盗聴器のチェックを始めた。
 盗み聞きってのは、たとえそれが盗聴器越しだろうがなんだろうが、感覚でなんとなく判るもんだ。ドアのチェックを始めたあたりからチクチク人の気配を感じてたから、オレは直感を頼りに盗聴器を探した。これにかなり時間をかける羽目になった。信じられないことに、オレが見つけられただけで15個もあったんだ。
 シガレットプラグや方向指示器の中にあるのなんかは取り外したら走行にも影響が出るし、そもそもオレは取り外す気はなかったから結局そのまま置いておくしかないんだけど、車の中のほとんどを網羅したこいつらはまるで走る盗聴器だ。車ってのはよっぽど仕掛けのしやすい代物らしい。これ、ぜったいタケシも気付いてるぞ。下手したらシーラだって気付いてる。いったいどういうつもりでこういう事をやってるんだ本部の連中は。
  ―― オレだけじゃないのか? 奴ら、タケシやシーラも始末するように、方針を買えたのか?
 オレは機材のチェックを大急ぎで終えて、部屋に戻った。
「ただいま、タケシ」
 部屋の中ではタケシが荷物を片付けていた。このホテルに滞在するのは今日までだ。おそらくシーラも自分の部屋で荷物を片付けてるんだろう。
「ああ」
「なんだよあれは。オレはあんなモン持ってこいなんて書かなかったぜ」
「オレに怒るんじゃねえよ。……たぶん、お前が本部を信頼してるのと同じくらい、本部もお前を信頼してるんだろうぜ」
「……なるほどね。確かに計算は合うか」
 2、3個なら何とでもできた。偽の情報を流して撹乱させるくらいのことは。だけど15個もあったらタケシと必要な情報交換すら出来ない。……いや、そうでもない、か。
「どうする。レンタカーでも借りるか?」
「それも考えたけどね、でも、いいよ。今回はこれでいこ。そうとう胸糞悪いけど作戦に支障はないし」
 そうなんだ。敵が本部である以上、作戦に支障が出るような方法はとらない。それさえ抑えれば奴らがなにを狙ってるのかが判る。シーラとタケシは盗難品の運搬に必要だ。だから奴らの狙い目は、オレがビルから脱出して車に乗り移るまでと、車を降りてホテルに入るまでの2ヶ所に限られる。
「サブロウ、……たぶんシーラも気付いてたぜ」
 どうやら、無事に仕事を済ませたとしても、オレにはまたシーラとの対決が待ってるらしい。