永遠の一瞬・53
 怖いと思うことはたくさんある。オレはずっと狙われ続けているから、仕事をすることそのものもすごく怖かったし、極端な話、部屋の外に出ることすら怖いことがある。食べるのも寝るのも、生きていること自体が怖かった。だからいつも考えないようにしてる。感受性のレベルが恐怖を敏感に感じるあたりまで落ちないように、気楽にいいかげんに過ごすようにしてた。
 タケシがシーラを捕まえてくれたら、少なくともシーラの視線への恐怖はなくなるんだ。もしもほんとにそうなったらオレはたぶん淋しいだろうけど、そんな淋しさよりも安心感の方がはるかに大きい。タケシにはそのへんが判らないんだろう。たぶん思ってもみないんだろうな。オレやシーラの気持ちに遠慮してるその優しさが、オレ自身の恐怖をあおってるだなんて。
 それとも、もしかしたらタケシも同じなのか……?
「 ―― サブロウ、なに考えてんだ」
 部屋に戻ってきて、ベッドの上で考え事をしてたオレの目の前で、手をヒラヒラ振りながらタケシが言った。見るとシーラが既にテーブルにグラスとシャンパンを用意してる。そうだな、考えてる場合じゃないか。少なくとも狙われてるのはオレだけで、組織はまだシーラとタケシを必要としているんだ。
 だからオレ以外に危害が及ぶような作戦は取らない。シャンパンに毒を入れるとか、ワゴン車に爆弾を仕掛けるとか。たぶん、失敗するのも覚悟でオレだけを狙ってくる。タケシやシーラを教育する前の幼い頃みたいに、全員いっぺんに片付けるようなことはしないはずだ。
「ちょっとね、イメージトレーニング」
「あの作戦に何か不安があるのか?」
「作戦に文句はないよ。前のときもうまくやったしね。……それじゃ、始めよっか」
 そう言ってベッドから降りて、オレはグラスを取った。