永遠の一瞬・54
 タケシとシーラもそれぞれグラスを取り上げた。目の高さに掲げる。
「目標は川田ビル4F、プラズプランニング社のコンピュータ内にある機密文書。 ―― タケシ、オレが死んだらシーラを頼むね」
 スターシップのメンバーは、死んでも何も残らない。だから心を残すことだけが許されていた。これはオレたちが心を残すための儀式だ。タケシがうなずいたのを確認して、オレはシーラに向き合う。
「シーラ、オレが死んだら遺灰はエーゲ海の海岸に ―― 」
「行ける訳ないでしょ! んもうっ! たまには真面目になれ!」
 ハイハイ、すみませんでした。
「次、タケシ」
「ああ。……サブロウ、シーラのことをちゃんと見てやれ」
 タケシの科白はいつもこんな感じだ。
「いつでもちゃんと見てるよ。……お前に言われなくてもね」
「シーラ、オレが死んだらオレのことは忘れろ」
「……忘れる訳ないだろ。……なんでいつも2人ともあたしが出来ないことばっかり言うんだよ……」
 そうかもしれないね、シーラ。だけど、それがオレたちの願いなんだ。君には世界で一番幸せになってほしい。死んだ人間になんか囚われないで、笑顔でいて欲しいんだ。
「シーラ」
「あのね、あたしたちはぜったいに死なない。サブロウも、タケシも、あたしも、誰も死なないで戻ってくるの。だから遺言なんかしない。2人とも、死んだら許さないかんね!」
 そうだな、オレが死んだら、あの世でシーラに殺されかねない。
 シーラの言葉もいつもと同じなのだけど、その言葉は今のオレにはすごく心強く響いた。
「だそうだ。 ―― それじゃ、作戦成功を祈って、乾杯」
 2人は唱和して、オレたちはシャンパンを飲み干した。