永遠の一瞬・52
 4歳の頃に見たそのデータがオレを変えた。今でもすべて覚えている。あの頃判らなかったデータの意味は、成長していく過程で少しずつ理解していった。あの頃に戻りたいなんてオレは思ってない。あのデータに出会わなかったら、オレはシーラとチームを組むこともなかっただろう。
 今の時間を守るためなら何でもできると思った。
「サブロウ……今の話ほんとう?」
「……タケシ、約束は守れよ」
「シーラを下着にしたお前が悪い」
 なに根に持ってんだよタケシ。お前、暗いぞ。
「本当なの? ちゃんと答えてよ、サブロウ」
 ……まあ、振ったのはオレなんだけど、なんで今ここで寝小便の話なんかしなけりゃならないのかね。
 とは思ったけど、どうにもシーラがあきらめる気配がないから、仕方なくオレは答えていた。
「まあね、オレも生きてるし、そういうこともあるでしょ。 ―― 判ったらこの話はおしまい! 飯を食え!」
 たぶんオレは何かが足りないのだと思う。シーラを怒らせたり、タケシを口ごもらせたり、そういうシチュエーションが通じなくなる瞬間を恐れてる。生きることに真面目に取り組んだらオレの何かが崩れる。本心を見せたら最後、すべてを話してしまう気がする。
 ほんと、タケシがシーラに告白して、シーラを夢中にさせてくれたら、なにもかもよくなるのに。
 だけどタケシにオレの気持ちを察して欲しいと思うのもオレのわがままだな。何も話さないですべてを判って欲しいなんて、虫が良すぎるって。
 シーラと目を合わせるのが怖くて、ずっと下を向いて食べることに集中してた。そうして、あらかた食事が片付いたところで、オレは言った。
「タケシ、部屋にグラスあった?」
「ああ、何かあっただろ。……今日は早いな」
「場所が遠いからね、早い方がいいと思って。酔っ払い運転はして欲しくないし」
「到着まではオレに任せろ。お前は車の中で少し寝ておけ。……今日は少し変だぜ」
 判ってる。オレは今日は変だし、その理由も知ってる。本部がどんな手を使うのか、まだ見えない。
 いずれ訪れる、この時間が終わる瞬間を待つ恐怖に、オレはいつまで耐えることができるだろうか。