永遠の一瞬・46
 いつものことなのだけれど、立て続けに違った自分を演じつづけると、元に戻るまでに強烈な反作用が起きる。
 まず、自分自身がつかまらなくなる。考えていることがいびつになるっていうか、どちらかというと暗い方面に精神が傾いて、矛盾することや関連性の分からない考えが次々と頭の中に浮かんで混乱する。それらをすべてねじ伏せながら、自分を取り戻していく訳だ。今日はワインの力を借りて、少しでも自分がリラックスできるように、運転席の背もたれを少し倒しながら瓶に口をつけた。
 汚い仕事だと思う。人間の弱い部分、小さな恐怖や欲望や、その人間の一番弱いところを探り出して、攻撃して、こちらに都合のいい情報を引き出していく。関わっているとどんどん自分が汚れて歪んでいくのが判る。自分自身の歪みを一番見せ付けられる時だ。これほど嫌な時間はなかった。
 今の自分ならためらうことなくシーラを強姦しそうな気がする。想像力とか、理性とか、そういう正の力が働かない。オレがこんな思いをするのはシーラが単位を取らないからだ。シーラにも同じ思いを味わわせて、オレの歪みを見せ付けてやりたくなる。
 オレは、誰が思うよりずっと弱いし、悪いし、きたない。
 オレがシーラを抱けば、シーラは単位を取る。オレがそう命じれば、シーラは調査に参加する。オレがシーラにそうさせないのは、別にシーラのためなんかじゃないんだ。もちろんタケシのためでもない。オレ自身がシーラを抱きたくないから抱かないだけだ。そう、言葉で自分をねじ伏せながら、ワインを飲みつづけていく。
 真面目に考えちゃいけない。もっと楽になれ。考えつづけてたら気が狂う。シーラをいじめて、タケシをからかってたら、そのうちに人生は終わってくれる。
 永遠のような人生も、たぶん一瞬で終わってくれるだろう。