永遠の一瞬・44
 とっさに受け身を取ったのだけど、それはほとんど無駄に終わった。タケシは自分でも体重をかけてオレを床に押し付けたから、オレは自分の体重とタケシの体重と、2倍の衝撃を背中に受けることになったんだ。息が詰まった。ほんと、こんなにタケシを怒らせたのは久しぶりだ。
「昨日、部屋でシーラの服を脱がせたんだってな」
 ……あ、なるほど。タケシが怒ってる理由がなんとなく判ったわ。
「脱がせたのはGパンと靴下だけだぜ。その下は触ってねえよ」
「それだけじゃねえだろ」
「ブラのこと? 寝苦しくないように背中のホックを外しただけじゃねえ。全部外した方がよかったのか? それなら次は覚えといてそうしてやるよ」
 そのとき、オレの言葉に傷ついたらしいシーラが部屋を駆け出していくのが見えた。タケシは勢いよく振り返って心配そうに見送ってる。シーラは自分の部屋に帰ったらしく、隣の部屋のドアが閉まる音が聞こえた。
「タケシ、チャンスだぞ。今行ってシーラに告白して来い。あの様子なら成功の確率はかなり高いはずだぜ」
「てめえは……シーラがなんで傷ついたのか、判ってねえのか!」
「スネもワキも処理してあったし、別にシーラが傷つくようなものは見てないけどね。あ、そういやあの傷がまだ残ってたぜ、自転車練習してたとき転んで小石が突き刺さったひざっこ」
 タケシはだいぶ落ち着いてきたらしくて、オレの言葉にため息を1つついた。必死で自分を抑えたんだろう。そういう意志の強さがオレがタケシを尊敬している理由のひとつだ。
「てめえのそういう態度がシーラを傷つけてんだろうが。……サブロウ、お前、シーラのことどう思ってる」
「どうって、別に嫌っちゃいないよ。好きだし、かわいいと思うし、ぜひ幸せになって欲しいと思うね」
「だったら女として見てやれ。シーラはもう子供じゃねえんだ」
「なんでオレにそういうことさせようとするの。そんなにシーラをかわいそうだと思うんだったら、お前がさっさとその想いを告白すれば、それで済むことだろ? シーラを好きなら幸せにしてやれよ。……他の男の事なんか、お前が忘れさせろよ」
 オレの言葉をどう受け取ったのかは知らないけど、タケシはオレを押さえつけるのを止めて、部屋を出て行った。