永遠の一瞬・36
 油断した。ほんの一瞬、タバコに気を取られた。シーラは嘘を見破るテクニックも勉強してる。判ってたから今まではオレもぜったい油断なんかしなかったのに。
 シーラには判ったはずだ。オレが彼女に嘘を言っていたこと。
「オレが隠し事をするのが気に入らない?」
 打つ手がないから、オレも開き直るしかなかった。まさかシーラとこんな形で対決する羽目になるとは思わなかったけど。
「プライベートのことは何も言わないって約束したよ。だけど、仕事のことは別だと思う。確かにあたしは半人前だけど、本部の命令まで隠す理由はないと思う。……タケシと会って、聞いたんでしょ? 本部はなんて言ってきたの?」
 ああ、そうか。シーラの部屋はオレたちの隣で、エレベーターに近い。たぶんタケシが出て行くドアの音と足音を聞いたんだろう。それに、さっきほど慌ててなければ、タケシがタバコを忘れていくなんてありえない。
 ……ダメだ。今のシーラに嘘を重ねることなんかできない。シーラはオレの嘘を全部見破る気だ。そしておそらく、嘘は全部見破られるだろう。
 あきらめて、オレは金庫から2つ目のファイルを取り出した。
「降参。君にはかなわないよ。……これがタケシが本部から受けてきた指令だ」
 シーラが手を伸ばしてファイルに触れようとしたところ、意地悪のつもりはなく、オレはファイルを移動させた。
「表紙だけだ。中身は見せない」
「……ほんとなの? それって、次の仕事?」
「嘘は言わないよ。オレにそれを伝えるためにタケシはオレを待ってた。タケシにも聞いてみるといい。君はオレよりタケシを信じるんだろうから」
 シーラはしばらく信じられないような表情でファイルを見つめていた。誰だって信じられないだろう。作戦進行中に本部が次の仕事をよこすなんて。
 だけど、だからこそ、シーラは信じる。オレが隠そうとしていたのがこれだけなのだと。