永遠の一瞬・31
 とりあえずシーラもおとなしくなったから、オレは再び車を動かした。山のふもとまで降りて市街地に近づくと時刻は既にお昼に近い。朝食は遅かったけど、量をあまり食べなかったから、けっこう空腹だ。シーラリクエストのゴージャスなランチを求めて、市街地を抜け、更に別の高地を目指していった。
「そんだけ泣いたら腹も減っただろ。昼は肉料理でいいか?」
 オレの隣で、シーラはけっこう長い時間泣いてたんだ。泣き止んだかと思ってチラッと見るとまた泣き出す、みたいに。体調も少し悪いのかもな。滝のしぶきをかぶって冷やしたりしてなければいいんだけど。
 オレの言葉にまた何か文句を言おうとしたけど、さすがに空腹だけは隠せないらしくて、腫れた目をウェットティッシュで押さえながら言った。
「肉料理って、どんなの?」
「まあ、焼肉だな。牛とか羊とか」
「ひつじ? ひつじで焼肉するの?」
「嫌なら豚もあると思うけどね。そのへんは行ってから決めればいいし。それでいいね」
 またいろいろ言われても面倒だから、オレは強引にそう決め付けて、看板を辿っていった。小さな牧場の隣にある屋外レストランの、ほとんど整備もされてない駐車場に車を停めて、真っ赤な目をしたシーラといっしょに丸太のテーブルにつく。平日だからそれほど客も入らないのだろう。だだっ広い店内にはオレたちのほかにカップルが一組いるだけだった。
 てきとうに注文を済ませてシーラを見ると、少し気分が明るくなったのか、あたりをきょろきょろ見回していた。
「あっちの方に牛がいるよ。あとで見に行ってもいい?」
 牛肉を食べた直後に牛と戯れる、ってのもちょっと怖い気がするけどな。あんまりそういうことにはこだわらないんだろう。少なくともあんな泣き方をしてるシーラを見るよりは明らかに気が楽だった。
 オレは軽く生返事をして、運ばれてきた肉を鉄板の上で焼き始めた。