永遠の一瞬・26
「転ぶなよ」
「大丈夫。なんかすごく空気がきれい」
「それを言うなら、水しぶきがつめたい、だろ?」
「サブロウは来なくていいよ。感受性ぜんぜん持ってないんだから」
 悪かったね。どうせオレには君の感受性の豊かさは理解できませんよ。
 だけど危険なのも確かだから、結局オレは滝壷のしぶきが1番激しいところまで、シーラに付き合った。
 シーラはしばらく、落ちてくる水の塊を滝壷から見上げていた。
 オレもこんなに間近で見るのは初めてだ。滝のちょうど真ん中あたりに大きな岩が突き出ていて、その岩に水の流れが割られている。しぶきは霧のようになってもうもうと立ち込めていて、オレとシーラは既にずぶぬれ状態だ。車の中にシャツの着替えか何かあるといいんだけど。
「ねえ、サブロウ。あの真ん中の岩って、もう何百年も前からずっと、水の勢いに耐えてきたんだよね」
「ああ、そうかもな」
「すごいね、ずっと負けないできたなんて。……これからもずっと耐えつづけるのかな。何百年も、何千年も」
「そんなに持たないだろ。水に削られて小さくなってやがては消えちまうか、地震かなんかで落ちるか。だいたい地殻変動で水の流れ自体が変わっちまうんじゃねえの? 何千年も先にはさ」
「……やっぱりサブロウって感受性ゼロ」
「オレにそんなものを期待する方が間違いなんだろ?」
「あたし、サブロウのこと判んない。……みんな、サブロウは優しいって言うよ。学校で同じクラスだった子とかもみんなそう言ってた。でも、そんなの嘘だよ。……ぜんぜん優しくないよ、サブロウなんて」
 シーラの言うことは当たってる。オレは自分が優しい人間だなんて、これっぽっちも思ったことはなかった。