永遠の一瞬・12
 電話の人物が紹介してくれた女性を車に乗せて近くのホテルまで行く。数時間をそのホテルで過ごしたあと、再び女性を車に乗せて、女性の自宅近くまで送り届けた。ずいぶん長い時間ホテルで過ごしてしまったので、時刻は既に夜に近かった。別れ際に車の中で熱烈な抱擁と濃厚なキスを交わして、せいぜい失礼にならない程度の秒数で引き離したあと、オレは彼女の前で指を鳴らした。
 オレより倍以上年上の女性は、がっくりと首を落として、身体の力を抜いた。
「いいですか。あなたは車を降りた瞬間、オレのことは一切忘れます。今日は1日中、街でショッピングをしていました。オレにも、あの人にも会わなかった。いいですね」
 女性はオレの言葉にこくんとうなずいた。
「ご主人に電話がかかってきたら、どうしますか?」
「……ベッドルームの金庫をあけて……」
「そうです。金庫を開けて、中に書いてある番号を記憶します。そのあと、オレに電話をしますね。電話番号はいくつでしたか?」
「090−****−****」
「はい、けっこう。そのあとどうしますか?」
「……全部忘れます……」
「そう、完璧です。……では、車から降りてください」
 女性はのろのろとした動作で車から降りた。オレは走り去りながら、軽くクラクションを鳴らした。今の一瞬でとりあえず催眠状態からはさめたことだろう。あとは彼女が指示どおりに行動してくれればいい。
 オレは少し遠回りをしながら、シーラとタケシが待つホテルへと車を走らせていった。