記憶�U・87
 首を、締められた。
 もがきながら目を開けると、目の前にいたのは、まるでオレ自身を鏡に映したかのような、オレにそっくりな男。
  ―― 葛城達也!
「……生きてえかよ」
 息が苦しくて答えることができない。耳の奥が痛んで、必死に抵抗するのだけれど、一瞬一瞬、オレは死に近づいていた。オレは、殺される。葛城達也に殺される。
(……生きてえよ!)
 心の中で叫ぶ。叫んでも、葛城達也は手を緩めなかった。オレの声は届いているはずだ。本気なのかもしれない。オレを殺して、すべての禍根を断つつもりなのか。
「死にたくねえか? 伊佐巳」
 頭の中が痺れるように痛んで、頚動脈で押しとどめられた血液が、行き場を失ってもがいている。脳が酸素を求めて喘ぐ。視界が真っ赤に染まる。
(死にたくねえよ! 当然だろ!)
「当然、なのか? なんでてめえはそう思っているんだ。ミオが死んだとき、てめえは死んでたじゃねえか。ミオが死んだのは変わってねえ。それなのに、なんでてめえは命に執着してやがるんだ」
 ……何を、言ってるんだ? こいつは。ミオが死んだのは17年も前だ。その時オレの記憶を奪って、オレを立ち直らせようとしていたのは、間違いなくこいつのはずじゃないのか。
 こいつはいったい何がしたいんだ。オレを殺したいのか? ミオを愛するように仕向けて、記憶を取り戻させて、それでなぜオレを殺そうとするんだ?
 オレはたぶん、奴が本気でオレを殺そうとしているのではないと、無意識に感じていたのかもしれない。そうでなければ殺される瞬間にこんなことを考えたりはしなかっただろう。オレが考えていることが判ったのか、葛城達也は手の力を緩めて、オレの首を解放した。何度か、むせるような咳をして、ようやく呼吸を整えたとき、奴はいきなりオレの頬を拳で殴ったのだ。
 ニヤニヤ笑いながら、葛城達也はオレを見ていた。オレの中にふつふつと怒りが湧き上がってくる。オレは立ち上がって、満身の力で奴を殴った。奴はよけなかった。だけど、すぐに報復の拳が飛んでくる。