記憶�U・84
  ―― 暗闇に目を凝らすと、ミオが立っているのが見えた。
「ミオ……?」
 ミオは微笑んでいる。その表情ははっきりとは判らないのだけど、ミオが微笑んでいることだけは判った。
「パパ、……パパはあたしの保護者、なのよね」
「ああ、そうだよ。パパはミオの保護者だ」
「ミオは16歳だから、保護者の承諾があれば結婚できるって、サヤカに聞いたの。だからパパに許してもらおうと思って。あたし、結婚したい人がいるの」
 ミオは微笑んでいた。オレは、今ミオがいった言葉に半ば呆然として、ミオを見つめていた。
「紹介するね、パパ。あたしの婚約者よ」
 ミオの隣に現われたのは、アフルだった。ミオはアフルの手を引いて、彼を見上げると微笑んだ。……ミオは、アフルと結婚したいというのか? オレの親友で、オレよりも2歳年上のアフルと。
「どうしてだ? どうしてアフルと」
「アフルはもう長くないの。だから少しでも一緒にいて、気遣ってあげたい。この3年間ずっと助けてくれたから、今度はあたしがアフルを助けてあげるの。それに ―― 」
 ミオは笑っている。だけどオレには表情が見えない。
「 ―― あたしが好きだった伊佐巳はもういないし」
 そうだ。オレは15歳の伊佐巳を殺してしまった。ミオが好きだった伊佐巳は、もうこの世にはいないんだ。
 ミオがアフルのものになる。オレのミオが、オレの傍からいなくなってしまう。
「……だめだ。許さない。アフルと結婚なんてオレが許さない。オレはお前の父親だ。オレが許さない」
「パパはあたしを3年間も放っておいたのよ。いまさらどうして父親だなんていうの? あたしの父親は、もう達也だわ。達也は許してくれた。あたしにはもうパパは必要ないのに」
 ミオの言葉はオレの胸にぐさりと突き刺さった。
「パパはあたしの伊佐巳を殺した。あたしは伊佐巳のことが好きだったのに、パパが殺したの。もう、恨んではいないわ。あたしにはアフルがいるから。アフルがあたしの少年だから」
 ミオはアフルの手を取って、オレに背を向けて遠ざかってゆく。オレは叫んでいた。何も考えずに叫んでいた。
「ミオ! ダメだ! オレから離れていくな! ……オレはミオのことが好きだ! オレにはお前が必要なんだ!!」
「もう、遅いのよ。何もかも……」
 誰よりもお前のことが ――
「ミオー!!」
 そう、オレが叫んだその時。

 オレは目を覚ましていた。