記憶�U・82
「ところで、あなたの方の話も聞かせてください。記憶をなくしてミオと過ごしていたのでしょう?」
 オレはあの頃のことを思い出して、少し顔を赤くしていた。ボスもサヤカを通じて大まかなところは聞いているのだろう。32歳のオレしか知らない人間に15歳のオレのことを話すのは、さすがにかなり赤面ものだった。
「ボスはオレの記憶障害に気付いていたのか?」
「そうですね。気付かなかったと言えば嘘になります。あまり甚大な被害を及ぼすほどではなかったので黙っていましたけど」
「いつからだ?」
「最初からですよ。あなたがコロニーに現われて自分の経歴について話していたときもですし。誰かに記憶を封じられているような印象を受けました。それからも時々記憶が抜けているようでしたね。伊佐巳自身は気付いていなかったのですか?」
「……そんなに前からとは思わなかった」
「表面的にはさして支障がないくらいでしたよ。ところで、そんなことでは私はごまかされませんよ。記憶をなくして、あなたは15歳のあなたに戻って、ミオに恋をしたそうですね。そのあたりを詳しく話してください。私はあなたに会ったらまずこれを訊こうとうずうずしていたんですから」
 そうだった。ボスにはこういう人の悪い一面もあったのだ。
「詳しくも何も今ボスが言った通りだ。……最初、まったく記憶がなかったとき、オレは最初に見たミオを母親のように思って慕った。そのあと15歳までの記憶が戻ってからも、オレはミオが自分の娘だなんて思わなかったから、ずっと恋人として大切にしていけると思ってた。……だけど、今はミオはオレの娘だ。娘だと思って愛してる」
「恋人ではダメなんですか? 確か血のつながりはないはずですけど」
「赤ん坊の頃から育ててきたんだ。血のつながりなんかなくたって娘だろう。オレはあの子の父親だ」
「……なんとなく判りました。あなたはまだ、葛城達也を意識しているんですね。あなたは葛城達也と同じものになりたくはないんです。葛城達也が自分の養女であるミオを女性として愛した。その前例があるから、自分の本当の気持ちを認めることができないんです」
 確かに、オレは奴が自分の娘を愛していたことに対して嫌悪感を抱いたことを覚えている。だけど、それとこれとは別なはずだ。ミオは確かにオレの娘で、その記憶は今でも鮮明に残っているのだから。
「葛城達也は関係ない」
「そうですか? ……私は3年前からあなたもミオも知っています。その頃から私はあなたとミオの親子関係に違和感を持っていましたよ。だいたいあなたのミオを見る目は娘に対するものとは明らかに違っていました。ミオの方もです。本当に気付いていなかったのですか?」
 ボスの新たな指摘に、オレは自分の耳を疑いたくなった。
「……なに?」
「ミオはずっとあなたに恋をしていたし、あなたもミオを娘だなんて思っていなかったんですよ。だからもう自分をごまかすのはやめなさい。少なくとも、私の前では」
 ボスの言葉は、オレの中にかなりの衝撃を持って迎えられていた。