記憶�U・79
「最初の3日間、葛城達也に呼び出しを受けるまでですけれど、それまではアフルストーンという人物が私を尋問していました。尋問という言葉が正しいのかはわかりませんが。ほとんど雑談に毛が生えた程度のものでしたから」
 それだけきいても、アフルが葛城達也に信頼されているのだということは判る。アフルはボスと雑談しながら、ボスの心の動きを観察していたのだろう。
「アフルはオレの親友だった男なんだ。奴はボスに触れたか?」
「いいえ。……そうですか。それでなんとなく納得しました。彼は私に対して興味と好意を抱いているように思えましたので」
「接触感応者で、身体の一部に触れていれば心の隅々まで読み取ることができる。その能力は葛城達也よりも強いかもしれない。触れてなくてもある程度は判るはずだ」
「なるほどね。彼は察しがよすぎたので、私も疑ってはいました。会話の内容はどちらかといえば私の思想に関しての話が多かったですね。宗教を尋ねられたりもしましたから。まあ、私は無心論者なのですけれど。駄蒙のことや伊佐巳のこと、そのほかコロニーの人間に関してもさまざまな質問を受けましたよ。そのあたりもあなたと以前から打ち合わせていた通り、嘘は一切つきませんでした。……そう言えば、ブルーという人間のことも訊かれました。あなたにも話したことがあったと思いますけれど」
 ブルーは、ボスがアフリカを旅していたときに出会ったという日本人のことだった。40歳くらいに見えるその男はオレによく似ていたという。その時オレはボスに、その男は葛城達也の弟だと説明したのだ。
 そうか、葛城達也は弟の消息を知らなかったのだ。妹の今の居場所が判らないと同じように、弟の居場所も突き止めることができなかったのか。
「私が葛城達也と直接会ってからは、彼はここに現われてはいません。葛城達也との会談は2日前だったと思いますが、いきなりめまいのような感覚になりまして、目を開けるとここではない部屋の中にいました。葛城達也が私との会談を望んでいるということはアフルストーンから知らされていましたので、私はすぐに目の前の葛城達也を観察しました。すると、葛城達也はその能力を使って私を縛り、おそらく私の頭の中を覗いたのでしょう。掻き回されるような嫌な感じがありました」
「アフルの接触感応ならそういう感じはないけどな。あいつはそこまで人に気を遣うような性格じゃないんだろう」
「相変わらずですね、伊佐巳。あなたは葛城達也のことになるとすぐに冷静な観察を忘れてしまう。他のことでは非の打ち所がないほど優秀なだけに残念ですよ」
 ボスに言われて気付いた。オレはまだ完全に奴の影を追い払うことができずにいるのだ。
「まあ、それはいいですよ。私はあなたに頼らずとも、彼を観察することができましたから。……伊佐巳、私は葛城達也を、少なくとも葛城達也の中にある人格の1つを理解しましたよ。彼は私が考えていた人物像とはまったく違っていました。……彼は、彼の本質は、日本の指導者などにはまったく向いていない、純粋な子供ですらないんですね」
 オレは、ボスの言葉に、かなりの違和感を禁じえなかった。