記憶�U・68
 ミオと話さなければ、オレは罪を罪と知らないまま、駄蒙を死なせていたのかもしれない。今回のことだけではなく、オレは今までの32年間で、多くの罪を犯してきた。罪は償われなければならない。オレがそうと認識できなかった罪は、これまで償われてこなかった。罪を償うということは、罪を罪と認識するところから始まるのだ。
 ミオは既にオレを必要としていないのかもしれない。ミオがオレを必要だと言い、未だオレを自慢のパパと呼ぶそのことこそが、ミオの背負うオレの影なのだろうか。
 ミオは、頼りにならない父親を見下す、あるいは見放す自分を恐れているのだろうか。
「お待たせ、パパ」
 呼び声に顔を上げると、ミオは満面の笑顔で部屋に戻ってきた。オレが微笑み返すと、ベッドのオレの隣に腰をかけて、自然な動作で腕を絡ませた。
「ついでにみんなの様子を見てきたら遅くなっちゃった。ごめんなさい」
「みんな? コロニーのか?」
「ええ。……コロニーが達也に勝てなかったから、みんな不安なの。自分たちがどうなるのか気になるのね。ほんとはあたしじゃ力不足なんだけど、少しでも元気付けてあげたかったから。達也はみんなの命を助けるつもりみたいだって、話してきたの」
 この子は今までもずっとそうしてみんなを励ましつづけてきたのだろう。この3年間、コロニーの人たちが閉じ込められてきた軟禁室を行き来できるのはミオだけだったのだ。
「オレたちの力が足りなかったばっかりに、みんなを不安にさせてしまったな」
「誰もパパたちを悪く思ってないわ。パパもボスも精一杯やったんだって、みんな判ってる。だからパパが落ち込む必要はないのよ。過去は過去。みんなが今考えているのは、自分の未来のことだもの」
 オレが考えなければならないのも未来か。そうだな。オレは未来を手に入れるために、過去の記憶を取り戻したんだ。
「オレの未来はどうなるのかな。皇帝はお前に話しているのか?」
「パパが記憶を取り戻してからは、あたしまだ達也と話してないから。でも、前に言ってたの。パパが記憶を取り戻したら、あたしとパパを解放してくれる、って。だから、たぶん追放になると思うわ。パパとボスと、コロニーの希望者は」
「追放か。……東京にかな」
「東京にはまだ生き残ってる人もいるかもしれないわ。あたしとパパと、ボスとサヤカの4人で東京に入れば、生き残っている人たちと協力してまた違う道が開けるかもしれないもの」
 オレはミオの言葉に驚いた。
「サヤカはオレたちと一緒に来るのか?」
 ミオの方もオレの言葉に驚いたようだった。
「どうして驚くの? とうぜん一緒に来るわよ。サヤカがボスと離れる訳ないもの」
 ……そういえばミオは言ってなかったか? サヤカはボスのことを好きだから、皇帝はボスを殺せないのだと。オレは3年前のサヤカを思い出そうとした。ミオと同年で13歳だったサヤカは、オレの記憶の中ではミオの友達の小さな子供のままだった。
「……ええっと、いつからそういうことになったんだ? ボスとサヤカは」
「さあ、サヤカの中では3年前から決まってたみたい。ボスの方はよく判らないけど、サヤカは美人だし、頭もいいし、すごくお似合いだと思うわよ」
 ミオはそう言ったけれど、オレはサヤカが美人だったかどうか、それすら詳細にイメージすることはできなかった。