記憶�U・59
 オレなら、どうするだろう。もしもミオか駄蒙かどちらかの命を選べと言われたら。ミオはオレの娘だ。13年間育ててきた最愛の娘。駄蒙は3年前に知り合ったコロニーのボスの側近だ。彼はオレの親友ではなく、無口な彼と必要以上の会話を交わしたことはなかった。
 オレにとって1番大切なのはミオだ。だが、オレはミオのために駄蒙を死なせることができるだろうか。決断を下すことができるだろうか。皇帝を敵としてともに戦い傷ついてきた、戦友の彼を。
 オレならきっとどちらも選ばないだろう。可能性が1パーセントでもあるなら、オレは葛城達也に挑み、奴を殺そうとする。その結果3人とも殺されたとしても、オレは命を選択することはない。誰かの命を奪うくらいなら、自分の命を懸ける。
 そうか。これがオレの限界なんだ。だからオレは葛城達也を超えることができないのか。そしてミオは、オレの限界を超えている。
 オレの娘は、既にオレを超えている。
「ミオ。パパにはできない。今生きている人間を殺すことなんかできない」
 どちらが正しいのか。それすらも、オレには判らない。オレは人の命を奪ったことを自分に納得させながら生きる強さはない。そんな強さはないほうがいい。
 オレには、葛城達也と同じ生き方なんかできない。
 ミオの強さを認めることは、オレの父、葛城達也を認めることだから。
「……判ったわ。パパには誰の命も選ぶことができないのね。……だったら、あたしがパパの分も駄蒙の命を背負っていくわ。あたしは生まれてからずっとパパに守ってもらったもの。今度はあたしがパパを守る。だから安心して、そのままのパパでいて。ずっとミオの自慢のパパのままで、いつかあたしが達也を殺すときまで、傍にいて見守っていて」
 そう言って、ミオはオレを見つめたまま、オレを愛しむように微笑んだ。
 オレは何かが間違っている。オレの娘。その娘にこんな言葉を言わせてしまった、それだけでもオレは間違っているのだ。ミオはオレを理解しているのに、オレはミオを理解していない。自分の娘を理解できないオレは間違っている。
 オレの存在がオレの娘を苦しめている。理解のない父親をそれでも愛そうとするミオはけなげで心が痛んだ。オレはもうミオを理解することができないのか? ミオはそれほど遠くへ行ってしまったというのか?
 どうすればいい。オレはいったいどうすればいいんだ。
「葛城達也はオレが殺す。だからお前がそんなことを言わなくていい。パパはミオには頼りないパパかもしれないけど、そんなことまでミオに背負わせたくない」
「間違えないで、パパ。あたしが達也を殺すのは、パパのためじゃないのよ。あたしは自分のために達也を殺すの。あたしが達也を殺したいと思っているの」
 娘のこんな言葉を聞くために育ててきたんじゃなかった。オレはこの子に平凡な幸せすら与えてやれない。
「……パパは、父親失格だな」
「ううん、そんなことない。あたしのパパは世界一のパパよ」
 一瞬もためらうことなく、ミオはそう言った。