記憶�U・56
 これまでのオレの17年間は、ミオを育てることと、葛城達也を殺すことだけに費やされてきた。
 勝美を殺した、葛城達也の妹。本当ならばオレは彼女を恨むべきだったのかもしれない。だけど、彼女も結局は犠牲者なのだ。葛城達也に裏切られ、その愛情を受けていた勝美に逆恨みをした。葛城達也がすべての元凶だった。奴が生きている限り犠牲者は増えつづけるだろうし、事実、その後の17年間に、奴の犠牲になった人間は計り知れなかった。
 17年前、オレの前に現われた葛城達也の妹は、平野まなみという名前の勝美の同級生だった。最後に見た彼女は明らかに精神に異常をきたしていた。葛城達也と同じく超能力を持つ彼女は、破壊の能力に長けていた。葛城達也は勝美を殺された17年前から3年前までの14年間、彼女に対して何ひとつ償いをしてはこなかった。
 誰も信じないだろうし、オレも言うつもりはなかったけれど、オレは地球を壊した恐怖の大王が、葛城達也の妹ではなかったかと疑っている。
 その真偽は別としても、その後の葛城達也の振る舞いは、人間として許されざるべきものだ。復興の指導者となって、東京を隔離し、多くの人間を殺した。葛城達也が殺したのは機銃掃射で直接殺した人間だけにとどまらない。救助の手を差し伸べていれば助かったかもしれない人間を、隔離することで見捨てたのだ。その人数は数千人に及ぶのだ。許せなかった。オレが葛城達也を殺せたなら、その数千人を見殺しにすることはなかっただろう。
 オレはすり替えているのかもしれない。オレが犯してしまった罪を、葛城達也を殺すことであがなおうとしているのかもしれない。自分の行動に矛盾があることはずっと感じていた。それでも、葛城達也を殺すことが正しいと、それだけを信じて生きてきたはずだった。
 オレはずっと、過去を見つめていた。
 だけど、葛城達也はいつも、未来を見ていた。
 葛城達也によって生み出された、そうならざるを得なかった、コロニーという集合体。東京に隔離され、仲間を殺され、強くなければ生きることすらできなかった人々。葛城達也は彼らを望んでいたのだ。復興社会の、従順な人間たちに風穴を開ける存在として、葛城達也はコロニーを必要としていたのだ。
 東京以外の人間は、既に葛城達也がいなければ生きられない。従順で、疑問を持たず、惰性で生きることしかできない。これから先の人間という種を進化させていく力がない。その力がコロニーにはある。葛城達也が欲していたのは、隔離され、虐げられた人間たちが生み出す、力そのものだったのだ。
 人を殺すことは正しいことじゃない。だからオレはコロニーについた。怒りのエネルギーをもって葛城達也を倒そうとした。そして、葛城達也はコロニーに倒されることを望んでいた。
 オレたちは、葛城達也が自ら与えたチャンスを潰したのだ。