記憶�U・55
 (ママはあたしが生まれる前に死んでしまったから。あたしの世界にはパパしかいなくて、パパと一緒にいるときが1番好きだった)
 オレはミオにそれを話したことはなかった。だけどミオは知っている。勝美が、ミオの母親が、ミオが生まれる1年も前に死んでいたのだということを。
 勝美が死んだ日の夜、オレは再び研究所に戻ってきていた。そして、葛城達也に頼んだのだ。オレの勝美をよみがえらせて欲しいと。
 勝美のクローンを作って欲しい、と。

 だいぶ気が済んだのか、ミオは泣くのをやめて、オレのシャツで涙を拭った。そして顔を上げる。13歳の頃よりもはるかに大人びた少女の顔があった。オレの娘は離れていた3年の間に、こんなにも大人に成長していたのだ。
「大きくなったな。……見違えたよ。本当にあの小さかったミオなのか?」
 勝美によく似た、勝美にそっくりな顔。だけどその表情には勝美にはなかった強さがある。普通の少女には必要のなかった苦労をさせてしまった。あの災害の後、埼玉で難を逃れたオレがコロニーを救うために東京に行くと言い出さなければ、この子は人質になることもなく、今でも復興後の埼玉で平穏に暮らしていたのだろう。
「パパは、変わってないわ。あたしの自慢のパパのままよ」
「苦労をさせたな。皇帝はお前にひどいことをしなかったか?」
「なにも。達也はいつでもあたしに優しかったから」
 勝美や、死んだミオと同じ呼び方で、ミオは皇帝葛城達也の名前を呼んだ。
「さびしくなかったか?」
「さびしかったけど、あたしには達也もアフルも、サヤカや、他のみんなもいたから。……さびしいより心配だったわ。もう2度とパパに会えなかったらどうしよう、って」
「……パパは、毎日ミオのことばかり考えてた。皇帝にいじめられてないか、病気してないか、さびしくて泣いてるんじゃないか、って。……何度も夢を見たよ。この建物を攻撃して、乗り込んでミオを探すんだ。だけどどこにもミオがいない。他のみんなはパパを見て悲しそうな顔をするだけで、誰も何も言わないんだ。本当の事を知るのが怖くて、パパは誰にも何も訊けないで、ずっとミオの名前を呼びながら、ミオを探しつづけてる」
「パパ……」
 ミオはぎゅっと、オレの首に抱きついた。まるでオレを慰めているようだった。オレの娘。この子はまだ、父親を必要としている。そしてオレにはこの子が必要だ。
 勝美の子。本当だったら生まれるはずのなかった、勝美の娘。初めてこの子を抱き上げたときから、オレはこの子のために生きようと思った。この子の命の責任はすべてオレにあると思った。ミオは、オレの命で、オレの最大の罪だ。
 オレは人の命をもてあそんだ。ミオが生きている限り、オレが勝美に対して犯した罪が消えることはないだろう。