記憶�U・33
「いろいろなことがあったんだ。……日本もかなりの打撃を受けて、東京は壊滅状態。他の、海岸部に位置する都市や、山間部の町もかなりの被害を受けた。1番被害が少なかったのが、城河財閥、つまり、葛城達也の本拠地埼玉だった。災害の1ヵ月後には、葛城達也は日本の皇帝として名乗りをあげて、生き残った人々の救出を始めたんだ。医薬品や食糧、流通の確保。人々に完全な分業をさせて、それによって日本は復興の第1歩を踏み出した」
 アフルによって語られるそれは、淡々としていたけれど、すさまじいものだった。オレは黙って聞いていた。どのようなものだったのだろう。オレにその記憶はなかったけれど、絶望に打ちひしがれる人々を想像することはできた。その想像は、実際の絶望とは、おそらく程遠いものであっただろうけれど。
「ただ、東京だけは、復興の対象にはならなかった。皇帝は東京を軍隊で閉鎖して、生き残っている人間を地上から一掃したんだ」
「……なんだって!」
 東京の人々を救助しなかったのか? それだけでも許せない。なのに葛城達也は、それだけでは飽き足らず、東京の人間を殺したというのか?
 オレは感情のままにアフルに掴みかかろうとして、すんでのところでとどまった。アフルは、触れることをしなくても、いつもある程度人の感情を読んでいる。感情のままにオレがアフルに触れれば、アフルが受ける衝撃は計り知れないものになるだろうから。そのくらいの理性は残っていた。
 以前から、葛城達也は冷徹で人の命など顧みない悪魔のような男だと思っていた。しかし、そんなオレが想像もできないことを、奴はしていたのだ。災害にあった人々に何の罪があるだろう。東京は被害が大きかった。そんな中に残っていたわずかな人間たちを、葛城達也は何の理由もなく殺したのだ。
 アフルは、オレの感情が落ち着くのを待っていたのだろう。やがて、オレが深呼吸をすると、再び話し始めた。
「ミオの父親は、ミオとともに、隔離された東京の地下にいた。そして、葛城達也を倒すために戦った。だけど、その戦いは彼らの敗北で、オレたち皇帝軍の勝利で終わった。……ミオは、人質なんだ。東京が再び決起しないための」
 戦いに傷つけられ、戦いに馴らされていたミオ。彼女が仲間と呼ぶ人々。この建物に監禁されているミオの仲間は、災害で生き残り、3年前の決戦で人質になっている人々だった。
 ミオにとってオレは、東京を隔離した葛城達也、その人の息子なのだ。