記憶�U・31
 この部屋で目覚めてから、ミオ以外の人間と会うのは初めてだった。だから、ミオが食器を片付けにドアを出ると、それだけで少し緊張した。オレにとっては数日前に会ったばかりの友人だ。だけど、客観的にはその間に17年の年月が流れている、
 ミオはすぐに戻ってきた。そして、ミオの後ろから1人の男が入ってきたのだ。
 ……確かに、時間は流れていた。男はオレを見て微笑を浮かべた。その微笑みはオレが覚えているのと変わらない優しさを含んでいて、その男が確かにオレの知っているアフルだと判ったのだけれど……。なんと言うのだろう。年をとるというのは、その顔に内面の人間性を刻み付けてしまうことなのかもしれない。それまで生きてきたアフルの軌跡をおぼろげにでも察することができる。彼の17年は平坦ではなかった。そう思わせるような複雑さが、その顔に滲み出ていたのだ。
「……アフルか?」
「ああ」
「……老けたな」
 オレがそう言うと、アフルはもっとはっきりした表情で笑った。
「お前ねえ。自分の顔を鏡で見てから言いなよ。老けたのはオレだけじゃないだろ?」
 アフルは昔と変わっていなかったけれど、でも確実に変わっていた。どこがどうとはっきり言うことはできないけれど。
 17年前に親友だったこの男は、今オレの味方になってくれる人間なのだろうか。
「見たけどさ。オレはさっぱりわからねえよ。自分がいきなり32だとか言われても、あれから17年経ってるって言われてもさ。……オレはアフルにいろいろ訊きたいんだ。オレが知らない17年の間に、いったい何があったんだ?」
「そう訊きたい気持ちは判るよ。でも、とりあえず座らないか? 立ったままだとオレが大変だ」
 アフルはひょっとしたら10センチ以上もオレより小さかった。
 ミオに視線で合図をした後、アフルはオレをベッドまで誘導して、縁に腰掛けた。