記憶�U・32
 ミオは椅子のほうに腰掛けて、成り行きを見守っていた。オレとアフルとは、例の巨大なベッドに腰掛けて、互いを見つめていた。
 アフルは接触感応能力者だった。触れただけで相手の心の中を即座に読み取ってしまう。だから、アフルに触れるということは、すべてを見抜かれてしまうということだった。オレはそれでもかまわなかった。いつでもオレは、アフルに触れられることによって、自分の心の中、自分でも気付かなかった感情を知ることができたから。アフルはある意味オレのカウンセラーのようなものだったのだ。
 だからアフルはオレの知識もすべて自分のものにしていたし、オレに与えられたコンピュータのパスワードも知っていた。他人の知識を余すところなく自分のものにできるアフルは優秀だった。逆に、他人の苦しみにも感応してしまうアフルは、いつも優しく、そして孤独だった。
「ミオ、ちょっと、席を外してもらえるかい?」
 アフルはそう言ってミオを振り返った。椅子に腰掛けてこちらを見ていたミオは、少し微笑んでうなずいた。
「お風呂に入ってきてもいい?」
「いいよ。でも、下着姿でうろうろしないように」
 ミオは苦笑いで返して、風呂場に消えていった。
 ミオが完全に部屋からいなくなると、アフルは言った。
「彼女とは3年前に知り合って、それ以来の付き合いになる。オレは彼女の世話係だったんだ」
 3年前。それは、ミオが父親と別れた、父親に置いていかれたのだと口にした、同じ時期だった。
「ミオの父親がここにミオを置いて、行方不明になったのか? 葛城達也のところにミオを置いて」
「まあ、そうなるね」
「3年前にいったい何があったんだ」
 答えてもらえるかどうか、オレには判らなかった。しかし、アフルはミオよりもはるかに多くの権限を与えられているようだった。あるいはミオには判断がつかない微妙な部分の判断力を、葛城達也に信頼されていたのかもしれない。
「地球が壊れたんだよ。3年前、1999年7月、大きな災害が起こって、地球上のほとんどの地域が壊滅的な打撃を受けたんだ」
 それは、オレがまるで想像もしていなかった、大きな転換だったのだ。