記憶�U・26
  ―― デジャ・ヴュ。
 オレは以前、こんな別れを経験したことがある。
 だけど、それは15歳までのオレの記憶ではなかった。今のオレにはその記憶はない。だとしたら、この記憶は、オレの未来の記憶だ。
 誰だろう。オレは確かに、1人の少女を置き去りにしたことがある。
「大丈夫だよ。ミオのことは絶対においていったりしないから」
 オレにはかつて恋人がいたのかもしれない。だけど、なぜ恋人を置き去りにするんだ、このオレが。今のオレが未来のオレならば、恋人とは絶対に離れたりしないはずだ。
 オレは、変わってしまうのだろうか。記憶を取り戻したら、オレは今のオレとは違う、恋人を平気で置き去りにできる人間になってしまうのだろうか。
 オレが探している未来は、今のオレにとって、どんな意味を持つのだろう。
「……アフルストーンに会いたいのね」
 ミオは、絡めていた腕を解いて、オレの目の前に立ち上がった。
「あたしが何とかするわ。最悪、雇い主の人に隠れてでも、伊佐巳をアフルストーンに会わせてあげる。……もう、伊佐巳に隠し事をするのはいやだもの。伊佐巳がしたいと思うこと、邪魔したくないもの」
 さっきの、永遠の一瞬のようなキスは、確かにミオを変えていた。彼女を好きになったオレは間違っていない。そして、彼女にも間違いではなかったと、感じて欲しい。
 部屋を出て行くミオの後姿を見送りながら、オレはドアを開けるミオの手元を記憶していた。