記憶�U・24
 いつも、オレはどんな顔をしていたんだろう。ミオとキスする前に自分がどういう表情をしていたのか、思い出せない。
「……あの、さ……。つまり、オレはやっぱりミオがいいんだ」
 ミオは、言っている意味がわからないというような表情をした。オレの方はかなり興奮状態で、自分が何を口にしたのかすら、よく把握していなかった。
「死んだミオのことも覚えてるし、これから何を思い出すか判らないけど、オレが今キスしたいと思ったのはミオで、それはミオがどんな名前でも関係ない。……やっぱりオレ、ミオの本当の名前が知りたい」
 好きだから。
 好きだからミオの名前も知りたいし、ほかのこと、ミオがオレに言えずにいることも全部、知りたいと思う。何も隠して欲しくないし、無理して欲しくもない。判ったから。ミオはちゃんとオレのことを好きでいてくれるってこと。そして、今でもやっぱり無理をしているんだってことも。
 好きな人の前で自分を偽ることが、どれほどミオの心に負担をかけているだろう。
「伊佐巳……」
 ミオは目を伏せて、でも、唇に何ともいえないような、抑えきれない喜びを噛みしめているような表情を浮かべて、オレの腕に自分の腕を絡ませた。オレはなんだか緊張してしまって、腕に余計な力が入っているのが判る。この緊張はそっくりミオにも伝わっているだろう。
「なんかあたし、どうでもよくなってきちゃった。ねえ、これからあたしが言うこと、すぐに忘れてね。……あたしね、伊佐巳の記憶が戻らなくてもいい。このままの伊佐巳で、何も知らないままの伊佐巳と一緒にいたい。この部屋から一緒に逃げちゃいたいよ」
 オレは、今初めて、ミオの本音が聞けた気がした。