記憶�U・25
 逃げてしまおうか。ミオと一緒に、この部屋から。そして、この建物から。
 葛城達也が支配する世界なんか、もうごめんだ。
「判った、ミオ。……もう忘れた」
「……ありがとう」
 この部屋のドアを開けるための暗証番号は、今度じっくりミオの手元を観察すればわかるだろう。そのあと、この建物の構造をどれだけミオが知っているか。ミオですら外に出る方法は知らないかもしれない。どうすれば調べられるだろう。アフルに会うことができたら、ある程度探り出すことができるだろうか。
 それより確実なのは、この建物のメインコンピュータに割り込むことだ。この部屋のドアに電子キーが使われているということは、建物全体が同じシステムを採用している確率は高い。あのパソコンから割り込めるだろうか。無理だったとしたら、どうにかしてメインコンピュータにアクセスする方法を考えなければ。
 視線を感じて見ると、ミオが少し不安そうな表情をして、オレを見上げていた。
「どうしたの?」
「……ねえ、伊佐巳。伊佐巳はどこにも行かないわよね。ずっと、あたしのそばにいるわよね」
 どうしてそんなことを思うのだろう。オレがミオのそばから離れるわけがないのに。
「行かないよ。どうしてそんなこと思うんだ?」
「……怖いの。あたしのパパは、あたしを置いていった。……もう、置いていかれるのはいやなの」
 ミオがそう言った瞬間、オレはミオに、誰かの面影を重ねていた。