記憶�U・22
「ミオ、君の本当の名前が知りたい」
 前にも話したこと。一度はミオに拒否されたこと。オレはもう1度言って、ミオを見つめた。
「ミオではダメなの?」
 判っているのだろうに、ミオはごまかそうとしている。オレが知りたいのはミオの本当の名前だ。本当の名前で、彼女を呼びたいのだ。
「今、思い出した。……あたしね、伊佐巳が最初にミオという名前を付けてくれたとき、すごく嬉しかった。ミオは伊佐巳が1番好きな女の子の名前だから。そう、雇い主の人に聞いたから、嬉しかったの。たぶん、伊佐巳にとって、ミオは特別な名前なんだな、って」
 ……ミオは最初から嬉しかったのか? オレが彼女に告白するずっと前から。オレが、目覚めて間もなかった、まだ、彼女がオレのことを好きかどうかも判らなかった、あのときから。
「もしもね、伊佐巳が違う名前を付けてくれるのなら、それでもいいよ。あたしのことを違う名前で呼びたいのなら、今、別の名前を付けて。……あたしの名前は、伊佐巳が付けてくれる名前だから。それがあたしの本名なの。そう思ってるから」
 ミオ、それじゃ判らないよ。まるで君には名前がないみたいじゃないか。オレがつけた名前を本名だと思うなんて、ものすごく不自然なことじゃないのか?
 オレはだんだん、自分の精神とか、自分が見ているものに、自信を失ってきていた。ミオという人間は、本当にここにいるのか? 彼女はオレが見ている幻ではないのか? オレは今、現実にいるのではなく、空想の、夢の中にいて、その中で自ら作り上げた1人の女の子と語り合っているのではないのか?
 確かめたかった……というのともちょっと違う。ミオは、やっぱりかわいい女の子で、オレが好きな女の子で、ちょっと、さっきみたいに狂暴にもなるけれど、基本的には小さくてか弱い女の子だった。オレは理論的な人間だったけれど、行動が理屈で解明できなかったこともこれまでの経験で山ほどあった。オレは、ベッドの隣に腰掛けたミオに近づいて、唇を、触れた。