記憶�U・20
 逃げ回るのは限界だった。完全に追い詰められる前に、オレはミオの拳を捕まえた。
 ミオが動きを止めた。
「ミオ、オレが悪かったんなら謝るから、話してくれる? いったい何を怒ってるんだ?」
 ミオはじっと、オレを見上げていた。ミオは女の子としても少し小さい方なのかもしれない。こうして立っていると、ずいぶんオレとでは身長差があって、首が疲れるのではないかと思った。死んだミオも小さかった。体重は、たぶんあの頃のオレと同じくらいあったけれど、
「……そんなの、あたしにもわからないわよ。……伊佐巳に無視されてるような気がしたの」
 無視、していただろうか。なんとなくわずらわしくて、不信感があって、何も話さなかった。話しても答えてもらえないと思った。オレはミオが答えられないだろう疑問ばかりを持っていて、だから無駄な質問はしないでおこうと黙っていた。
 たとえ無駄な質問であっても、何も言わなければミオには判らない。オレが何を考えているのかが伝わらなくて、だからミオはいろいろ想像してしまうのだろう。たとえ答えてもらえなくても、オレはミオに質問しなければならないんだ。ミオの本当の名前は何というのか。ミオは32歳のオレにとってどんな存在なのか。
「オレは、さっき、画面の中にミオの名前を見つけた」
 ミオはほんの少し眉を動かして、表情を微妙に変えた。
「その名前がオレに関わる人間の名前なのか、それもよく判らない。ねえ、ミオ。オレにはミオという名前の知り合いがいるのか? それは君と関係があるのか? 苗字の頭文字の「K」は、いったい何の略なんだ?」
 どう答えるべきか、ミオは迷っているようだった。おそらくミオにも判ったのだろう。ミオに答えてもらえない質問だから、オレが今まで黙っていたのだということが。
「……あたしが知っている限りでは、葛城達也に関わる人間で、ミオという名前の人は3人いるわ。そのうちの1人は、17年前に死んでしまったミオ。そして、あとの2人のうちの1人を、伊佐巳は知っているの」
 ミオの答えはそれほど具体的ではなかったけれど、オレのイライラを少しだけ解消する効果はあった。