記憶�U・19
 オレが鶴にイライラをぶつけて、それで何とか自分を落ち着けようとしていると、不意にミオが立ち上がっていた。テーブルに手をついて、顔を上げたオレを正面から睨みつけた。
「伊佐巳、あなた暗いわ」
 そういうと、驚くオレのほうにつかつかと歩いてきて、いきなり拳で突いてきたのだ。
 折りかけの鶴を放り出して、オレは腕を上げた。ミオの拳の進路を変えながらよける。それはほとんど無意識の動作だ。オレの身体が覚えている、空手の防御だった。
「いきなり何するんだよ」
「思い通りにいかないからって鶴に当たらないで。千羽鶴は願いを込めなきゃ意味がないのよ。イライラするんだったら身体を動かしなさいよ」
 そのあとはかなり本格的にミオはオレに攻撃を仕掛けてきたから、オレもそれ以上椅子に座っていることができなかった。ミオのまわし蹴りを腕を交差させてよけ、椅子を盾にとって間合いを開けたあと、テーブルを回ってミオの攻撃から逃げていった。まさかミオに攻撃できるわけない。それに、オレは身体が動きを覚えているというだけで、空手を正式に習った経験はないんだ。逃げることは無意識にできても、攻撃が無意識にできるかどうかは判らない。
「待てよ、ミオ! いったい何を怒ってるんだ」
「伊佐巳が暗いとあたしまでストレスがたまるの! こら! 逃げてばっかりいないで戦いなさいよ!」
「女の子相手に攻撃できるわけないだろ。ちょ……ミオ、ほんとに危ない」
 部屋の中はかなり広かったけれど、このままではどちらかが怪我をするかもしれない。実際オレはベッドの方へに追い詰められていた。