記憶�U・17
「どうしたの? 壊れちゃった?」
 一瞬、オレのことを言われたのかと思った。真っ暗になった画面を呆然と眺めているオレは、傍からは壊れたロボットのように見えただろうから。ミオが言ったのは、突然文字が消えてしまったパソコンのことだった。
「いや、たぶん大丈夫だと思う。回線を切られただけだから」
「切られた? 誰かが切ったの?」
「メインコンピュータに付属してる安全装置が働いた。どうやらオレのことをハッカーだと思ってるらしいよ、このキカイは」
 なかなか一筋縄ではいかないな。次は付属の安全装置を切るところから始めなければならないらしい。
「なんだか気が抜けた。ねえ、ミオ。ここって禁煙?」
 オレの質問に、ミオは驚いたようだった。15歳のオレはわりと日常的にタバコを吸っていた。ミオはそのことも知っているはずだ。
「伊佐巳、タバコを吸うの?」
「ここ最近……って、15歳のオレにとっての最近だけど、けっこうな本数吸ってるよ。それも思い出したからさ、なんとなく」
「……訊いてみるけど、たぶん許可は下りないと思うわ」
 怪訝な顔をして、ミオはオレを見た。もしかしたらミオはタバコを吸う男をあまり好きではないのかもしれない。
「ならいいよ。しょうがない、鶴でも折るか」
「パソコンは? もう見ないの?」
「この状態になっちゃうと5時間は動かないよ」
 たぶんオレは、画面にあったミオの名前に反応して、少しおかしくなっているのだろう。なんとなくすべてがわずらわしくて、ミオにいろいろ説明するのも面倒だった。ミオもオレのそんな態度を察したのだろう。テーブルに椅子を戻して鶴を折り始めたオレの向かいで、ミオも鶴を折り始めた。
 15歳のオレの中にも、折鶴というものの記憶はなかった。ミオの感覚で言うならば、15歳のオレもかなり日本人として恥ずかしい人生を送っていたらしい。そのくらいオレの15年間は特殊だったのだ。