記憶�U・16
 真っ先に自分の項目を開かなかったのは、もしかしたらこのたくさんの名前の中に、オレの記憶を喚起する名前があるかもしれないと思ったからだ。名前はすべてローマ字で書かれてあって、オレの名前は上から3番目に「Isami_K」とある。姓のイニシャルがないものの方が多い。中には外国人かと思うような名前もあった。
 ひとつひとつ、オレは見つめながら、自分の記憶と照らし合わせた。いったいどのくらい読み進んだか。不意に、オレはその名前を見つけたのだ。
 Mio_K ――  ミオ ―― 。
 思わず振り返って後ろにミオがいることを確かめた。今ここにいるミオは、オレが勝手に名づけたミオだ。彼女の本名をオレは知らない。
 ミオという名前は日本人に多い名前だろうか。いや、けっして多い名前とはいえないだろう。オレが知る17年前に死んだミオは、苗字のイニシャルは「Y」だ。あのミオでもない。もしかしたらオレは、この「Mio_K」という人物を知っているのだろうか。
 だから、最初に目覚めたとき、彼女にミオの名前をつけたのだろうか。
「伊佐巳、どうかした?」
 このリストの人物をオレが知っているとは限らない。葛城達也にとって邪魔な人間を集めただけのリストだ。オレ自身が知っている人物が一人もいない可能性だってある。「Mio_K」はただの偶然の一致かもしれない。
 おそらく、オレは恐れている。オレはミオの正体を知るのを恐れている。
「なんでもないよ」
 そうミオに言って、オレはそれ以上リストを見るのをやめて、「Isami_K」の画面を開こうとした。そのときだった。やや長めのエラーサインが鳴って、ディスプレイに一瞬文字が表示されたあと、いきなり回線が閉じてしまったのである。
 真っ暗になってしまった画面を眺めながら、緊張が解けたオレはかなりほっとしている自分に気付いていた。