記憶�U・14
 もしもこのコンピュータが、研究所のメインコンピュータにそっくりに作られた偽物だったとしたら、いったい誰が作ったのだろう。葛城達也にプログラムの知識はない。いや、オレには17年のブランクがあるのだから、オレが知らない間に奴がプログラムの知識を身に付けている可能性はある。だけど、オレはあいつを知っている。あいつがプログラムを組むなどという単純な作業を何ヶ月も続けてこれを作り上げたなどとは到底思えなかった。
 葛城達也は腹心の部下にこの作業をやらせたのだろう。17年前のメインコンピュータの内部を詳しく知っていて、プログラムの知識がある人間。オレのほかにそんな人間がいるのならば、オレは絶対にその人間に会ったことがあるはずだ。
 オレは、内部にしまわれている機密文書がある場所に繋ごうと、画面を変えた。その先はパスワードを入力しなければ進めない。オレはいつも打ち込んでいる長ったらしいパスワードを打ち込み始めた。行数にして15行はあるとてつもなく長いパスワードを。
 ミオは後ろでじっと見ている。まるで、オレを邪魔するまいとするように、呼吸を止めている。このパスワードを与えられているのは組織の中でも10人に満たなかったはずだ。しかし、オレの独自のパスワードを知っていたのは、オレと葛城達也のほかにはたった一人だけ。
 入力を済ませて送信すると、画面が変わった。その時点でほぼ確信していた。17年前のメインコンピュータの内部を熟知していて、コンピュータのプログラムの知識を持ち、オレの打ち込んだパスワードが合っていることを知る人物が、彼であると。
「ミオ」
 急に声をかけられて、ミオはずいぶん驚いたようだった。
「なに?」
「アフルストーンに会うことはできる?」
 瞬間的に反応できなかったミオの様子で、オレはオレの親友がこの建物の中にいることを知ったのだ。