記憶�U・12
 このパスワードを設定したのは葛城達也だ。オレは今まで、自分を中心にしてあらゆる言葉を打ち込んでいた。オレの頭の中にある、オレに関わる言葉や人名を探していた。だけど、これを打ち込んだのは葛城達也なんだ。オレの知る、自己中心的で他人に関心を持たないあいつが、オレが思いつく言葉を設定していると考えるほうが間違いなんだ。
 食事を摂るのももどかしかった。掻き込むように昼食を終えると、オレは再びパソコンに向き合い、画面を呼び出した。ミオはオレの食事の早さについてこられなかったらしく、テーブルで食事しながらオレの背中を見守っていた。
 オレの頭の中には、葛城達也という人格がコピーされている。オレ自身が今まで接してきて、オレの目を通して形作られた葛城達也だ。オレは奴が生まれた44年前から17年前までの葛城達也の人生を思い浮かべた。生まれたのはオレと同じ城河総合研究所。しかし生後まもなく、山梨県のある孤児院に、2人の兄弟と一緒に捨てられた。
 10歳までをその孤児院で過ごした後、奴は今の能力に目覚めた。いわゆる超能力と呼ばれるものだった。それを知った城河基規に研究所に呼び戻され、少しの間超能力の訓練を受ける。研究所にいた期間はわずかだった。すぐに研究所を飛び出して、他の2人の兄弟とともに、城河基規が所有する東京のマンションで暮らし始めた。
 やがて城河財閥の総帥、城河基規が死亡する。2年後、13歳のときに城河財閥を乗っ取り、それ以後は財閥の総裁として闇の組織J・K・Cを作った。そこまで葛城達也を突き動かしていたのは復讐心だ。ともに孤児院で過ごし、19歳の若さで殺されてしまった、奴が心に描く英雄の……
 オレはその英雄の名前と、死んだときの年齢を打ち込んだ。しばらくあって、接続が完了した旨のメッセージが画面に現われていた。
「繋がったの?」
 いつの間にか後ろにきていたミオが言って、集中していたオレを驚かせた。