記憶�U・10
 朝食はまたカレーライスだった。しかし、今度はレトルトではなく、固形ルーから煮込んだものらしい。朝からカレーというのも不思議な気がしたが、おそらくこれもオレの記憶に関わるものなのだろう。入っている具も一般的なカレーの具だったから、食べてみたけれど、そこから何かを思い出すということはなかった。
「ミオ、オレは今、死んだミオのところまで思い出した。ということは、この次に思い出さなければいけないのは、2回目の引越しのあとの記憶なんだな」
「順番はそうね。でも、この先は順番どおりである必要はないと思うわ」
「どうして?」
「今まで15歳よりも前の記憶を思い出してほしかったのは、本物の記憶よりも先に偽物の記憶を思い出さないでほしかったからなの。でも、伊佐巳はちゃんと本物の記憶を思い出したわ。この先、偽物の記憶を思い出したとしても、きっと本物と区別がつくと思うの。だったら、どこから思い出しても大差ないわ」
「それも葛城達也が指示したこと?」
「気になるみたいね」
「……別に」
 実際、葛城達也の手のひらの上で踊らされているのは、かなり気分が悪かった。だけど、そんなことばかり気にしているのはおろかだ。今は葛城達也を利用しなければ、奴を殺すだけの知識も経験も蘇らない。
「この先のオレの記憶は、今のオレの記憶とつながってない。どうすれば思い出せるだろう」
「答えになるかどうかは判らないけど、1つだけ方法があるわ。……雇い主の彼が言っていたの。伊佐巳の人生の奇跡、そのデータを引き出す方法がある、って」
 ミオはそれ以上は言わなかった。だけどその方法はたぶん、あのパソコンの中にあるはずだ。
 記憶が戻った今なら判るかもしれない。オレにあてられたアカウントとパスワードが。
「わかったよ。……食事が終わったら、パソコンに訊いてみる」