記憶�U・4
 朝食まではまだ時間があったので、オレとミオはテーブルに向かい合って、紙を広げた。その紙には既に、引越し1から4までの印と、オレがそれまでに思い出したいくつかの事柄が、ミオによって書かれている。今度はオレ自身が鉛筆を握って、思い出したことを片っ端から記入していった。
 だけど、人間1人の人生というのは、たかがB4の紙1枚くらいにおさまるものではないらしい。それに、オレにとっては研究所にいた15年間よりも、死んだミオと過ごした2週間足らずの日々の方が、ずっと密度の濃いものだったのだ。オレは引越し1から2までのその区間を別紙に抜き出して、1日ずつ、詳細に記入していった。
 その中には、食事の献立や、ミオと話した会話の内容もあった。この3日間で疑問に思ったことの答えのいくつかは、この中にあった。
「『双子の王子、お姫様奪回作戦』って言うのね」
 オレが無意識に打ち込んだゲームは、死んだミオを楽しませるために作ったものだ。
「どうして動かなかったのか、判ったの?」
「ああ、判ったよ。このゲームは、フロッピディスクが2枚ないとダメだったんだ。オレはあの時1枚分しか作らなかったから。でも、プログラムの中の変数を少し変えれば、1枚でも動くようにできるよ」
 この3日間のオレの食事は、ミオがオレに作ってくれたもの。そして、「義理の親子は結婚できない」と話したのも、死んだミオだった。
 葛城達也とミオとは義理の親子だった。死んだミオは、もしかしたら葛城達也と結婚したかったのだろうか。
「ミオ、ひとつだけ、答えてほしい」
 年表をほとんど埋めたあと、オレは言った。
「何? 答えてほしいことって」
「オレの記憶を消して、ミオを雇ったのは、葛城達也だな」
 ミオは答えるのをためらうように沈黙した。