記憶�U・2
 目覚し時計が鳴り響く前に、オレは目を覚ましていた。振り向くと、ミオが健やかな寝息を立てている。オレはしばらくの間、ミオの寝顔を眺めていた。死んだミオの寝顔はもっとだらしがなかった。このミオの寝顔は、どこかあどけなくてかわいい。
 やがて、ベルの音が鳴り響いて、ミオは目を覚ました。薄目を開けて半ば手探りで時計を探し出すとベルを止める。寝起きのミオは無防備だった。あまり寝起きのいい方ではないらしい。しばらく時計を見つめて、オレを見上げて少し驚いた顔をした。
「おはよう、ミオ」
「……おはよう。起きていたの?」
「ああ。ミオが起きるのを待ってた」
「……眠い」
 パタッと、再び寝転がって、もそもそ動きながら毛布を探す。オレはちょっとがっかりしたけれど、眠いのを無理に起こすのもなんだかかわいそうで、そのまま起き上がった。着替える前に軽く体操。どうやらオレの最近の生活習慣の中に、この体操は含まれていたらしい。無意識に動く身体は、15歳のオレにはなかった習慣だ。
「……」
 背後から声が聞こえて、オレは振り向いた。と、ミオはいきなり目を覚まして、勢いよく起き上がったのだ。現状認識ができないらしく、オレを見つめたまま呆然と座り込む。しばらくオレたちは見つめ合っていた。やがて、おもむろにミオが言った。
「あたし……寝ボケてたみたい。何か変なこと言わなかった?」
「言ってたみたいだけど聞き取れなかった」
 ミオは心からほっとした様子で、オレに微笑みかけた。
「よかった……。ごめんなさい。おはよう、伊佐巳」
「おはよう」
 なんだか不思議だけど、寝ボケたミオというのも、今のオレにはものすごくかわいらしく見えた。