記憶�U・3
「ミオ、あのさオレ、ミオが起きたら言おうと思ってたことがある」
 ベッドにぺたんと座ったまま、ミオは首をかしげた。
「オレは、君のことが好きです。ずっと、たぶん3日前、初めて目覚めたときから」
「……思い出したの……?」
 驚いたように、ミオは両手で口元を抑えて言った。やがて、わずかに目を潤ませた。
「ごめん。もう絶対忘れたりしないから」
「……よかった!」
 涙を浮かべたまま、ミオは小さく笑い出した。抱きしめてしまいたくなったけれど、そうはせず、オレはしばらくの間、そんなミオを見つめていた。ミオは強い。まだたった16歳の女の子なのに、こんなにあやふやな記憶を持つオレのことを好きでいてくれる。オレはたぶん、ずっとミオを好きだろう。たとえこの先どんなことを思い出そうとも。
「うれし泣きしちゃった。顔、洗ってくるわね」
 そう言ってミオが洗面所の方に歩いていったので、その隙にオレは着替えることにした。オレが着替え終わる頃、ミオは戻ってきて、箪笥の前でパジャマを脱ぎかけた。
 ふと、手を止めてオレを振り返る。少し、恥ずかしそうに。
「伊佐巳、顔洗ったの?」
「あ、うん、洗ってくる」
 オレがそそくさと洗面台のほうに向かって、その手前で振り返ると、ミオはボタンに手をかけたままじっとオレを見つめていた。
 どうやらミオも、オレを男として認めてくれたらしい。
 それがなんだか嬉しくて、オレは顔を洗いながらも、にやついてしまうのを抑えることができなかった。