記憶・97
「なぜ、ミオは……」
 自殺したのか。そう、問いたかったのだろう。少女は言葉を濁していた。
「いろいろ複雑なことが絡み合ってて、一言では説明しきれないし、オレにも全部判ってる訳じゃない。ただ、ひとつ言えるのは、ミオは達也の冷徹さに、ものすごく心を痛めていた、ってこと。達也は、死を実感できない。愛する人間が死ぬことがどういうことなのか判らない。だから、ミオはそれを達也に教えたかったんだと思う……」
 自殺に踏み切ったミオを、達也は止めなかった。オレはそこまで見抜けなかった。もしも判っていたならば、一瞬だって目を離したりはしなかったのに。
 たくさんの人間が、オレに忠告した。ミオは死人の目をしていると。
「もう、いいわ、伊佐巳。今日はこれでおしまいにしましょう」
 オレが黙ってしまったからだろう。ミオと名乗る少女は、オレに言った。
「いろいろあって混乱したはずだもの。今日はゆっくり眠って、また明日話を聞かせて」
 オレ自身、この少女に訊きたい事はたくさんあった。だけど、オレが混乱しているのも本当だ。眠れば、少しは整理できるかもしれない。
「判った。言うとおりにするよ、ミオ」
 初めてオレは少女の名前を呼んだ。だからかもしれない。彼女は、ほんの少し微笑を浮かべた。
 ベッドに入り、眠りにつくと、まるで待ち構えていたかのように悪夢が現われた。