記憶・94
 達也を探しに行かなければならない。
 なぜ、ミオを見殺しにしたのか。
 なぜ、ミオの自殺を止めなかったのか。
 あの時、オレがミオから目を離さなければ、ミオは自殺をすることもなかった。
 ミオを、達也と2人きりにさえしなければ。
「……伊佐巳、いったい何を探しているの? あなたは何をどうしたいの? ……お願い、あたしに話してみて。力になれるかもしれないわ」
 少女はそう言って、ふらふらと立ち上がりかけたオレの顔を覗き込んだ。そうだ。オレは今まで、この少女をミオと呼んでいた。どうしてオレは彼女をミオと呼んだのだろう。
 オレは何かを忘れている。オレの記憶は混乱している。ミオが死んで、そのあとオレは何をしていた? いつ研究所に戻ってきたんだ?
「ええっと……君は、誰?」
 彼女は複雑な表情でオレを見ていた。
「あたしは、ミオよ」
「君の名前もミオというのか? オレが知っている女の子と同じ名前だ」
「あたしの名前はあなたが付けてくれた。あなたがあたしのことをミオと呼んだの」
 少しずつ、オレは思い出していた。そうだ。オレが彼女をミオと名づけたんだ。
「君が、好きな名前をつけるように、オレに言った」
「ええ、そうよ。伊佐巳はあたしに、ミオの名前をつけてくれたの」
 空白の時間。ミオが死んだあと、オレは彼女と出会って、彼女にミオの名前をつけた。
 恐る恐る、オレは聞いた。
「ミオが死んで、どのくらい経ったの?」
「ミオが死んでから、17年経ったのよ」
 あまりの衝撃に、オレは息を詰まらせたまま、何も答えることができなかった。