記憶・91
 パソコンの前に座って、プログラムのパスワード入力の画面までを呼び出した。オレの犯罪を裏付ける、J・K・C教育プログラム。内容はある程度想像がつく。オレが探らなければならないと思うのは、このプログラム全体から受ける嫌悪感、恐怖の正体だった。
「ミオ、君は見なくてもいいよ」
「伊佐巳?」
「内容そのものに君が見る価値はない。こんなものに教育されたらまともな人間になれない」
 ミオはくすりと笑った。どうして笑ったのか、オレには判らないけれど。
「判ったわ。言うとおりにする」
 オレは、パスワードを入力した。
 最初に出てきたのは、個人番号と名前の入力欄だった。適当な7桁の数字と、名前にいさみと入れてEnterを入力すると、再び画面が変わって、教科書で言うところの概要部分が表示された。
 そこに書いてあったのは、J・K・Cという会社の創業の歴史だった。親会社の城河財閥の創設は明治時代にまでさかのぼるが、太平洋戦争を経て城河基規の代に、高度成長期の波に乗って現在の地位を確立した。そこまでは、オレは冷静に読み進むことができた。オレを硬直させたのは、城河基規の死後の1文だった。
『基規の死後、数年の間、城河財閥は総裁不在の状態が続いた。しかし、城河基規の実の息子、葛城達也が14歳の若さで……』
 オレの記憶の扉を開けるカギ。キーワード。
 これだったのだ。オレの嫌悪感と恐怖の具現。『葛城達也』という名前が、すべてのキーワードだったのだ。
 オレの内部のコンピュータは、葛城達也という名前を入力したとたん、暴走を始めた。今までロックされていたたくさんのカギが、この名前ひとつでいっせいに外れたみたいだった。たぶん、オレは叫び声を上げていた。オレの脳の処理速度は、この暴走に追いつくことができなかった。
 オレの意識は途切れた。