記憶・80
 揺り起こされる振動で、オレは目を覚ました。
「伊佐巳、伊佐巳、大丈夫?」
 床に突っ伏していたオレは、ほとんどミオに抱き起こされるような格好で身体を起こした。
 夢を見たような気がする。あの不気味な顔の夢ではない。15歳だったオレが暮らしていた、ほんの2週間の夢。
 夢の全貌を覚えているわけではない。その夢の中でオレが幸せだと感じたのは、1人の女の子に恋をしていたから。
「どうしたの? 何かあったの? ……もっとはやくくればよかった。こんなときにあたし、そばにいないなんて」
 怒涛のように流れていったたくさんのオレの記憶。おそらくそのショックで精神の糸が切れたのだろう。その記憶たちの大部分はオレの頭の中から失われていた。こうして目覚めて、頭の中の整理がついて、判ったことがひとつだけある。オレがなぜ15歳の伊佐巳として生まれてきたのか、オレがこれから何をしなければならないのか、その理由。
 オレが取り戻したいと願ったのは、あの2週間の恋だ。
「ミオ……」
「ん? なに?」
 ミオはオレの頭を抱きかかえている。オレは自力で起き上がって、ミオの前に座った。オレがしっかりと起き上がったから、ミオはずいぶん安心したように見えた。いつもまっすぐな瞳でオレを見つめる少女。
 今のオレが恋をしたのは、この女の子なんだ。
「オレは、ミオのことが好きだ。オレの恋人になってくれないか」
 オレのこの科白は、ミオの表情を瞬く間に硬直させた。