記憶・69
 最新式のCPUの上で動く、17年前のOS。要するにオレはそういう存在なのだ。この状態を物干し竿にたとえることはできなかったけれど、オレは今はっきりと自分というものをイメージすることができていた。
「ということは、オレはかなり最近まで空手をやっていたことになるな」
「そうだと思う。毎日型を作っていたから、今も型を作ることができたのね」
 おそらく初めてだった。ミオがオレのことについて、「思う」などというあいまいな言葉を使ったのは。
「……もしかして、君は最近のオレのこと、わからないのか?」
 この質問はミオにとっても意外だったらしい。だが、その様子で、オレは自分の憶測が間違っていないことを知ったのだ。
「君はオレのことをすべて知っているんではないのか?」
「……日常の細かいことまではそれはわからないわよ。本人しか知らなかったこともあるもの」
 そう言ったミオの表情と声にごまかしを感じたのは、あるいはオレの考えすぎだったのか。
「あたしが伊佐巳の経歴として聞いているのは、全部ほかの人が話したことなの。伊佐巳の周りにいた人から聞いたことをつなぎ合わせて話しているだけ。だから、もしかしたら本当の伊佐巳の経歴とは少し違うかもしれないわ。でも、前にも話したけど、あたしを雇っている人は伊佐巳の身内なの。だから、大人になってしまってからの最近のことは少しあやふやかもしれない。でも、伊佐巳が独立するまでのことについては、かなり信憑性があると思わない?」
 人間が饒舌に何かを強調する時は、別の何かを隠そうとしている時だ。ミオは無意識にそうしているのか。もしかしたらミオ自身、自分がいったい何を隠そうとしているのかわからないのかもしれない。