記憶・71
 消灯の時刻にはかなり早かったのだが、ミオはほとんど無理やりオレをベッドに就かせた。昨日あまり眠っていなかったからすぐに眠くなるかとも思ったが、あいにく眠気が訪れることはなく、オレは薄目をあけてミオの様子をうかがっていた。
 食卓になっているテーブルで、ミオはノートに何かをつけていた。それはもしかしたらオレの記憶の観察日記のようなものなのかもしれない。それが終わると、眠った振りをしていたオレの眠るベッドに、ミオはもぐりこんできていた。
 こうなるとオレも眠るどころではなく、気配でミオを観察しつづけた。自分が目覚めていることをできるだけ悟られないよう、息を殺して微動だにしない。そんな時間がどのくらい流れただろう。やがて、ミオが眠ってしまったらしい寝息が、オレの耳にも届いてきていた。
 これでオレも眠ってしまえば、今日も何事も起こらずに1日を終えることができる。明日のことはわからないけれど、今日という1日は無事に終えることができるのだ。
 ところが、そうはならなかった。というのは、眠ってしまったはずのミオが、何か言葉を口にしたからである。
「……」
 最初、ミオが目覚めてしまったのかと思って、オレは身を硬くした。しかしそうではなかった。ミオは眠りながら言葉を発していたのだ。
 恐る恐る、ミオを起こさないように、オレは身体を起こした。そして、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるミオの輪郭を見下ろした。上掛けを握り締めて、何かをつぶやいている。夢でも見ているのかもしれない。聞き取れない言葉を何とか聞きたくて、オレはミオに近づいて、耳を寄せてみた。
 ミオの声は、まるで泣き声のようにか細く、悲しげだった。