記憶・66
 ミオが雇い主への報告があると部屋を出て行って、オレは風呂に入った。風呂から上がってミオを待っている時間はかなり手持ち無沙汰で、オレは昨日の続きの千羽鶴を折り始めていた。最初の何枚かは手順を確認しながら折っていたけれど、そのうち何も考えなくても自然に折ることができるようになってからは、オレは鶴を折りながら、自分の頭の中を整理し始めた。この方法は思った以上に有効で、単純作業というものは頭脳労働を促進させる効果があるのだと、オレは改めて知ることになった。
 そうしているうちにミオは戻ってきて、夕食の前にミオも風呂に入っていた。それだけならまだいい。問題は、風呂上りのバスタオル姿のままオレの視界をうろうろすることだ。できるだけそちらを見ないように折鶴に集中していたら、その日オレ1人だけで24羽も折り上げてしまっていた。
 ミオはオレのことを子供だとでも思っているのだろうか。それとも、そういう考えに思い至らないくらい、彼女は無垢な存在なのだろうか。
「伊佐巳、カレーライスは嫌い?」
 いつの間にか匙の動きが止まっていたからだろう、食卓の向こう側で、ミオが言った。夕食は何の変哲もないカレーライスだった。食べてみたらそれがレトルトのカレーであることがわかったけれど。
「いや、嫌いじゃないよ」
 ミオを心配させないために、オレはカレーライスを口に運んだ。昼食が遅かったせいかあまり腹が減っている感じはない。この部屋はある程度の広さはあるといっても所詮はただのワンルームだ。こんな狭い空間でほとんど身体も動かさずにいたら、それほど腹も減らないだろう。
「ミオ、ここで運動しても大丈夫かな」
 ミオはあっさりと答えてくれた。
「この建物、かなりじょうぶよ。多少どたばたしてもぜんぜんかまわないと思うわ。食後は運動してみるの?」
「ちょっと試してみたいことがあるんだ」