記憶・59
 オレはしばらくの間ミオの顔を見つめていた。あまり長い間そうして見つめつづけていたから、ミオは小首をかしげてみたり、照れたように微笑を浮かべたりしていた。しかしオレは実際のところミオの表情に心を奪われていたわけではなかった。オレの中にそれまでなかったはずの知識が蘇っていることに気付いて、知識の再点検作業をしていたのである。
 オレは自分の無意識を監視しながら、ごく自然にOSという言葉を使った。意識を取り戻して改めて記憶を辿ると、今まで理解できなかったコンピュータの内部構造のようなものが、自然に理解できていることに気付いたのである。このパソコンのソフトの使い方は今でも判らない。だが、もっと深い部分、MS−DOSの階層の原理などは理解できるのだ。
 いや、たぶん、オレは最初から知っていたのだ。オレの中にはこのパソコンの知識はないけれど、他のパソコンの知識がある。用語や使い方を思い出せないのは、思い出せないのではなく、知らないから。
 そうか。パソコンの技術は日々進化しているから、このパソコンに使われている技術を15歳のオレが知らなくてもあたりまえなんだ。
「ミオ、このパソコンのOSはウィンドウズっていうの?」
 オレが沈黙を破ったことで、ミオは幾分ほっとしたように見えた。
「OSという言葉は知らないけど、ウィンドウズって言葉なら知ってるわ。ええ、たぶんそうだと思う」
「それって、窓と関係ある?」
「あると思うわよ。ソフトが窓みたいに開くから、そういう名前になったみたい」
「オレはこのOSは知らないんだ。ってことは、オレが15歳だった17年前には、まだできていなかったってことなんだろうか」