記憶・57
 食後はミオはでかけてしまったから、オレはまたパソコンに向かって文字を打ち始めた。文字を打っているオレの後ろで、もう1人のオレが見守っている。見守るオレは文字を解析しようとしていた。知識は間違いなくあるのだから、見ているうちに何か判るかもしれないと思ったのだ。
 画面はオレの想像以上にすばやくスクロールしてゆく。打ち間違いというものもなく、カーソルが戻ることはなかった。数字とアルファベットの羅列が最初はまったく読めなかったが、そのうちに少しずつ特徴が見えてきた。オレはどうやら16進法を使ってプログラムを作っているらしい。
 もっと判りやすい言語なら解析することもできるのかもしれないが、思い出せない上に16進法ではお手上げだった。打ち込んでいるときの気分が相当胸糞悪いことから考えると、このプログラムは先ほどオレが理解できなかったプログラムと同じか、その続きというようなものらしかった。
 連続した、同じ傾向のプログラム。それはいったいどういうものなのだろう。もともと1つのプログラムであったのなら分割する必要はない。違うプログラムならば、これほど似ている意味がない。
 オレはしばらく考えて、1つの答えに行き当たった。構成そのものはほとんど同じものだけれど、内容が少しずつ連続して変わるもの。それは教科書などによく見られる傾向だった。これはもしかしたら、教育に関わるものなのかもしれない。
 オレは誰かを教育する目的で、プログラムを組んでいたのか。
 その誰かがたとえば1人なら、プログラムなど組む必要はない。プログラムの最大の利点は、ディスクを大量にコピーできることだ。オレは不特定多数の人間を教育するためのプログラムを作っていたのだろうか。