記憶・53
 最終的には外部のコンピューターと接続したいのに、そのやり方がわからずに、オレはずっとパソコンの中のソフトに惑わされる羽目になった。やがてミオが帰ってきて、ほとんど集中していないオレを見て驚いたくらいだった。
「どこへ行ってたんだ?」
 答えてもらえないかとも思ったが、意外にあっさりとミオは教えてくれた。
「友達に会ってきたの。あたしの親友なの」
「この建物の中にミオの親友がいるのか?」
「親友もいるし、仲間も。あたしも伊佐巳と同じで、この建物から出ることはできないのよ」
 ミオとの短い会話で、オレはこの部屋の外、建物の内側で何が行われているのか、おぼろげながら知ることができていた。この建物の中には、ミオが仲間と呼ぶ人間たちが何人か、外に出ることもできずに暮らしている。監禁されているのか、それとも建物の外が危険だからなのか、それは判らない。だが、ここはオレが持っている常識の範囲に収まる場所ではないのだ。
この部屋の外で何が行われているのか、オレは知りたいと思った。オレ自身はおそらく、この部屋からすら出ることはできないのだろう。外の情報を知る手がかりは、ミオと、このパソコンだけ。ミオから聞き出すことのできない情報は、パソコンから手に入れるしかないのだ。
「ミオ、君はこのパソコンの使い方を知ってるの?」
ミオはちょっと困ったような顔をした。
「ごめんなさい。あたしの家、パソコンなかったのよね。だからあたしにはパソコンの知識はないのよ」
「説明書みたいなものもないかな。用語辞典でもいいんだけど」
「パソコンは伊佐巳の記憶と直接関わるものだから、あったとしても持ってくることはできないはずよ」
 やはり、必要な知識はすベて自分で思い出すしかないようだった。