記憶・52
「別に1時間ごとに帰ってこなくてもいいけど」
 オレがそう言うと、ミオはちょっと目つきを鋭くした。
こんな顔もできるんだな。
「あたしが帰ってこなかったら、伊佐巳は休憩なんか絶対にしないわ。賭けてもいい」
 オレもそう思った。だけどそうとは言わず、両手を上げて降参した。
「判った。必ず休憩する。できれば目覚し時計か何かないかな」
「それも探してくるわ。……じゃあ、1時間後にまたくるわね」
 そう言って、ミオはトレイを片付けがてら、部屋を出て行った。オレは再びパソコンの前に座って、今度はさっきとは別のことを始めた。今までは自分の中のデータを打ち込むことをずっとしてきたけれど、今度はパソコンの内部を探ることに重点を置いていじり始めたのだ。オレはパソコンの知識はほとんどなかったけれど、今までの作業で少しはコツのようなものをつかんでいた。
 だが、いざ自分のやりたいことをやろうとすると、オレの頭はまったくといっていいほど働いてはくれなかった。今のオレに判るのは、アイコンをダブルクリックすると何かのソフトが立ち上がることとか、閉じるときにはバツ印をクリックすればいいこととか、その程度なのだ。ソフトが立ち上がったとしても、その使用方法はまるっきり判らない。ヘルプを読みながらひとつひとつ理解しようとするけれど、まず言葉の意味が判らない。オレがさっきまで使っていたのはどうやらソフトではなく、ソフトを作る方の機能だったらしい。それだけは判った。オレはパソコンのソフトをプログラムしていたのだ。