記憶・55
 オレの昼食はおそらく1人だった。15歳のオレの隣に一緒に食卓を囲む女の子がいたとしたら、その子が学生だったのか、あるいはオレ自身が学校に行っていたのか。どちらにしてもオレは1人で持ち帰り弁当を食べていたらしい。1日のほとんどをパソコンの前で過ごしていたのだとしたら、オレは不登校児だったのか、それとも、通信教育で学んでいたのかもしれない。
「今朝から作ってたプログラムはどういうものなの?」
 答えは、オレの脳の中にひらめくように現れた。
「企業用のプログラム……らしいな。名簿を作るソフトみたいだ」
「なんとなく判る気がするわ。名前や住所を入れるワクがあって、打ち込むと別の画面で名簿になるのね」
「そう。宛名ラベルの印刷ができたり、検索にも使える。オレはどこかの会社のプログラムを作る仕事をしていたのかもしれない」
 だとしたら、オレはすでに学生ではなかったのか。在宅勤務で、企業の下請けのようなことをしていたのかもしれない。それならば昼間1人で持ち帰り弁当を食べていたこともつじつまがあう。
「もう1つの方は何なの?」
 もう1つ、それはさっきまでオレが打ち込んでいたプログラムだ。
 なぜだろう。そのプログラムについては、オレのひらめきはまったくないのだ。動かしてみることはできるだろうか。たぶんプログラムには間違いはない。ゲームのときのように、動かないということはないだろう。
「判らないの?」
「ああ、判らない。どうしてだろう。判るのも不思議だけど、判らないのも不思議だ。……見てみればはっきりするよな」
「伊佐巳、1つだけ、約束してくれないかしら」