記憶・51
 15歳のオレは何を望んでいたのか。今から17年前、オレの身体と心はともに15歳だった。そのとき、オレの前には「義理の親子は結婚できない」と話した女の子がいた。オレはもしかしたら、その子の恋人になりたかったのかもしれない。
 判らない。判らないけど、そんな気がした。本当は違うのかもしれない。オレは今ミオに興味を持っているから、都合よくそんな風に考えるのかもしれない。
 17年前のオレは、いったいどんな恋をしていたのだろう。
 オレが恋していた女の子は、ミオに似ていたのだろうか。
「朝食が終わったら伊佐巳は何をするの?」
 ミオが聞いてきたが、そもそもオレには予定など何もなかった。今のオレにできることといえば、パソコンをいじるか、せいぜい鶴を折るくらいなのだ。
「何も考えてない。オレは何かしなければならないことでもあるのか?」
「伊佐巳には仕事のようなものはないわよ。伊佐巳の今の仕事は、過去を全て思い出すことだもの」
「だったら、好きなことをしていていいんだ」
「そうね。欲を言えば、記憶を思い出せそうなことかな」
「だったらパソコンをやるよ。オレはたぶんかなりの時間をパソコンの前で過ごしていたはずだから。もしかしたら記憶を思い出すきっかけが見つかるかもしれない」
「それじゃあ、あまりやり過ぎないように時間を決めましょう。午前中はお昼までで、1時間に10分は休憩を入れること。午後は5時までね。それでいい?」
「判った」
「そうね。……それだったら、伊佐巳がパソコンをやっている時間、あたし、出かけてきてもいいかな。ちょっとやっておきたいこともあるの。もちろん、伊佐巳が休憩になるときには傍にいるようにするから」
 確かに、オレがパソコンに向かっている間何もせずにいるのは、殊のほか退屈なことだろう。