記憶・50
 ミオが言っていることが、オレには理解できなかった。
「それって、どういうこと?」
「うーん、あたしも受け売りなのよね。……つまり、肉体年齢と精神年齢が一致してる人間なんて、世の中には数えるほどしかいないのよ。たとえば、あたしは13歳のときにパパと別れて、それ以来パパとは1度も会ってないの。だから、パパに関するあたしの精神年齢は、13歳のままで止まってしまってるんだわ。もしも今パパと会ったら、あたしはたぶん13歳の頃のあたしに戻ってしまうと思う。伊佐巳も同じなんじゃないかしら。伊佐巳は記憶をなくして、15歳という年齢を選んだけど、それは伊佐巳の精神年齢の何かが15歳で止まってしまったからじゃないのかな。だから伊佐巳は15歳の今から始められるの。止まってしまった時間を動かして、少しずつ16歳になって、17歳になって、最後には肉体年齢と一致させる。その間の可能性は、15歳の男の子のもので、けっして32歳の大人の人のものではないんだわ」
 15歳のときにオレがなくしてしまったもの。
 15歳のときにオレが止めてしまった時間。
 記憶をなくしたオレは、その15歳の時間を取り戻すためにここにいる。そのときのオレが成長させられなかった自分の中の何かを見つけるために。
 それを探さなければ、もしかしたらオレの記憶は戻らないのかもしれない。漫然と時を過ごしているだけでも、一生懸命記憶だけを思い出そうとしても、それがなければオレはずっと不完全なままなのか。
 15歳のオレの可能性はどんな未来につながっているのだろう。もしかしたら、ミオの恋人になれる可能性だって、ゼロではないのだろうか。